ちょっと早いですが、今年のまとめを。
一年前の年末年始、小説家になろうのランキングはかなり酷い作品が多い印象でした。このままだとランキングを追って読んでいくのはきついな……などと思っていたのですが、春ごろから良い作品が出てきましたね。
秋ごろからのおっさんやスローライフブームも個人的には好印象。落ち着いた作品が増えると嬉しいな、と思って眺めています。
とはいえ、「おっさん」といいつつ、全くおっさんらしさがない作品がランキングに上がっていたりするのは困りもの。おっさんを恰好よく書いている作品ならもっと読みたいのですが……ただ、所謂チートもの等と違って、作者の技量が問われるジャンルという気もします。
春ごろからランキングに良い作品が出始めたと書きましたが、切っ掛けになったのが、「
生き残り錬金術師は街で静かに暮らしたい」だと思っています。
これは傑作でした。
「スタンピード」「生き残り」「錬金術師」といった「なろう」向きのキーワードを使いながら、独自の世界を展開。途中だれそうな場面も幾つかありました(どの話も面白いか、というと今一つな話もありました)が、それを乗り越えて今も連載が続け、着実に話を展開させているのは見事。シリアスと日常のバランスも良い。主人公マリエラをはじめ、ジーク、リンクス、レオンハルトといったキャラクターが生き生きと動いている。
個人的に、物語の一番の危機は第四章、あのキャラクターが登場したときだったと思っています。感想欄に「別物になってしまった」と書いていた方がいましたが、私も当時そう思っていました。ですが、作者の対応は冷静でしたね。「物語を紡いでいくのは今まで通り迷宮都市に住む一人一人です。」と。実際その通りの展開になっています。
私が読んだ今年の小説家になろう作品の中では、この作品が一つ抜けていました。この機会に、評価も「おすすめ」から「非常におすすめ」に上げます。
今年、「なろう」のランキングをチェックしていた方で、これを読んでいない方がいたらもったいないと思いますよ!
次点は「
冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた」です。
これは……変な小説です。
レビュー記事でもカズオイシグロみたいとか変なことを書きましたが、いまだに純文学みたいな読み心地という印象です。冒険者という「なろう」向きの題材を用いて、「すれ違い」のテーマを淡々と描き続けています。小説家になろう的な面白さはあまりないのですが、面白い小説を読んでいるという満足感があります。
以前、記事を書いたときは、「帰れない娘」の章が終わって、後はどうなるのか? と不安でしたが、その後もネタに詰まったような様子はなく、様々な「すれ違い」を書いていますね。
また、「おっさん物」としてベストに近い出来でしょう。ちょっと枯れていて、落ち着いているけれど判断力・包容力がある主人公。実力では劣っていても、勝負すれば若い者にも負けない。本当に魅力的に描かれています。
ただ、ちょっと読みにくくなってきたのは気になります。
登場人物が増え、義父視点と娘視点を交互に描くという分かりやすい構成からずれる部分が出てきたことや、シリアス展開が原因でしょう。まあ、展開上仕方なかったのか……。
そのシリアス展開が今後の物語にどう影響していくのかには注目しています。この小説にシリアスは馴染まないんじゃないかとも思うのですが。上手く処理できるのか?
文章やキャラクターは良いものの、分かりやすい面白さのある作品じゃないだけに、いつ失速してもおかしくないという不安はいまだに持ち続けています。
その他、このブログで評価「おすすめ」を付けた今年連載開始の小説は以下の通り。
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Eクラス冒険者は果てなき騎士の夢を見る 「先生、ステータス画面が読めないんだけど」
序盤は勘違いものとして面白かったけど、途中からシリアス方向に舵を切り過ぎた印象。一応、最新話まで読んでいますが、最近の展開は今一つ。
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はぐるまどらいぶ。
スピーディな展開が魅力だったのに、あまりにも長い戦闘が出てきたあたりで撤退。
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ギルドの新人教育係(自称)
綺麗にまとまった良作でした。
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神統記(テオゴニア)
正統派で出来の良い作品。ただ、これからさらに面白くなりそう、というあたりで連載中断中なのは不安。
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脇役艦長、参上! ~どうやら間に合ったようだな!~
漂月さんは安定してますね。私は好き。ただ、今までの「なろう」三作品は、どれも主人公が似た性格に見えるので、飽きが来るのも早いか。
「まあまあ」とした中では、
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シャバの「普通」は難しい
は「おすすめ」にしようか迷いましたが……。新作の「
異世界無双には向かない国民性」もそうですが、中村颯希さんは上手過ぎる! ちょっと上手くまとまり過ぎてて、おすすめと言いにくい感じがあります。
あとは連載中断中ですが、
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みつばものがたり
には期待しています。七沢またりさんの新作。以前の作品とちょっと違う雰囲気ですがやはり面白かった。
なお、昨年以前から連載中の作品では、「
エリィ・ゴールデン ~ブスでデブでもイケメンエリート~」が持ち直してきた印象で嬉しい。主人公の努力が実った辺りで大分面白みが減じた印象でしたが、主人公の目的や話の方向性が定まって面白くなってきました。
その他、「
呪印の女剣士」「
ライブダンジョン!」「
食い詰め傭兵の幻想奇譚」「
レイロアの司祭さま~はぐれ司祭のコツコツ冒険譚~」「
謙虚、堅実をモットーに生きております!」といったあたりは、今でも楽しみに連載を追いかけています。