(~117、完結済)
異世界召喚と落語を組み合わせた小説。書籍化しています。
https://ncode.syosetu.com/n9574di/
異世界召喚もの。
救世主を召喚するはずなのに、噺家が召喚されてしまった異世界の話。だが、その噺家が落語をすることで勇者がやる気を取り戻したり、救世主のような働きをしていく。
アイディアは秀逸。
ただ、様々な落語に異世界の状況を組み合わせた連作小説の形式なのだが、若干、出来不出来があるように感じた。
異世界の状況と落語が上手く重なったものは非常に面白い。多少無理があっても、それ自体が面白いと思えた。最初の「クロノ・チンチローネ【時うどん】」などは素晴らしいと思う。元になった落語の内容を異世界の風習に合わせるためのちょっとした工夫が楽しい。
逆に、元の落語から変え過ぎている話には違和感もあった。落語の翻案ではなく小説なのだから、変えること自体は悪くないのだが、変更箇所の多い話はどうも面白さも減じているように感じた。元ネタのある話の難しさか。
また、後半、「異世界から召喚された人間には不思議な力が備わる」という設定を元にストーリーを組み立てたのはどうだったのだろう。この設定自体は異世界召喚ものでよくあるものだが、こういう設定を組み込んでしまうと、「異世界落語の面白さ」より「異世界人の特殊能力」が強調されてしまう。落語の面白さとは別次元の、異世界召喚の要素が強くなるのはこの小説にとっては損だったと思う。そのせいもあって、個人的には終盤の展開には不満が残った。
というわけで、色々と不満もなくはないのですが、全体としては良い出来の小説だったと思います。書籍版には違う落語もたくさん扱っているようなので、期待できそう。
ちなみに私は、このWeb版にある落語は大体知っていました。ただし、この小説は上方落語準拠ですが、私は東京落語しか知らないので違和感もありました。
全く落語を知らない人が読んでどう思うかはちょっと分かりません。合わない人もいるだろうなぁ。
逆に、この小説を読んで面白いと思った人なら落語も好きになる可能性が高そうな気がします。筆者も解説などで書いていますが、実際に落語を聞きに行くのも良いかも。