(~31、完結済み)
一昨日完結したicecrepeさんの作品。
https://ncode.syosetu.com/n3700fb/
このブログでicecrepeさんの小説を扱うのは「
アップルバイト楽団世紀末公演」に次いで二作目ですが、毎作チェックはしています。「なろう」でパニック小説といえばこの人、という感じですね。
恋人に子供ができ、結婚を間近に控えた男が主人公が、生きたまま死者を運ぶ船『灯籠廻船』に乗ってしまう。生きて現世に戻るためには、特殊能力を持った化け物たちの攻撃をかわし、かつ謎を解かなくてはならない。一緒に乗り込んだ三人とともに生還を目指す。
パニック小説だが、主人公の造形が気持ちいい。あえて生還を目指さず、死ぬことを提案されたときの主人公のセリフ「死んだら親不孝、できねえからな……」は強く印象に残る。両親と上手くいっていない主人公が、本当に命がかかった舞台に立ったときに言うセリフとして非常に説得力がある。
パニック小説部分の後、小説の終わり方も非常に気持ち良かった。彼の人生に思いを馳せて読んだ。
さて、メインのパニック小説&ミステリー部分。
ここには、icecrepeさんさんの良い部分と悪い部分が出ていると思う。この小説の後書きの
活動報告を見ると、戦闘描写に問題があるかもしれない、というようなことが書かれてある。私の意見では、戦闘描写それ自体には問題ないと思う。
というか、戦闘シーン自体は非常に上手いでしょう。スピード感があり、テンポが良い。それでいて戦略性がある。今回も、パニック小説パートの序盤は凄く面白かった。
問題は、(「アップルバイト楽団世紀末公演」でも同じことを書いていますが)テンポ重視のために描写を省略し過ぎて、シーンが伝わらなくなりやすいこと。あと、登場人物が多いのもきつい。
今回は、敵の登場人物が多く、さらに敵それぞれが特殊能力を持っている。読者側としては、それを全て記憶するのはかなり辛いと思う。「なろう」で連載間隔が開くから、というのもあるけど、それがなくても(少なくとも私には)きつい。
戦闘シーンをテンポ良く描くのはもちろん良いことなのだけれど、合間合間に、もっと復習的な説明をしっかり描いてもらうと良いのかなぁ、と思ってしまった。
私の想像だけれど、作者としては、別の部分と重複するような説明は書きにくいかもしれない。確実にテンポを阻害する要因になるし。でも、テンポ重視の戦闘シーンと説明部分で緩急をつけた方が多分読みやすくなるし、そうやって、どんな読者にも分かりやすいように描く方が良いんじゃないかなぁ……という気がした。
謎解き部分は……うーん。確かにヒントは出揃っていたけど、読者にこの謎解きを要求するのは難し過ぎるような。もうちょっと途中経過を入れた方が良い気もする。
icecrepeさんの作品はずっと読み続けていて、毎回、文章力・構想力には感心させられています。でも、私にとって、最後まで満足できる作品にはなっていないことが多くて、その辺はなんでなのかなぁ、と考えてしまいます。
これは、記憶力が足りないという私個人の問題かもしれないけど、もう少し読者の記憶力・読解力を低く見積もって、もっと過剰に説明してもらった方が読みやすい気もします。