(~33まで)
電撃《新文芸》スタートアップコンテスト大賞受賞作品で、書籍化決定済の作品。
こちらにコメント頂いたので読んでみました。
https://ncode.syosetu.com/n9736dt/
ディストピアものサイバーパンク系SF。スラムから這い上がるため旧世界の遺物を探すハンターになろうと決心した主人公アキラが、旧世界の女性型拡張現実アルファと出会い、サポートを受けて成長していく物語。
文章がしっかりしており、きちんとSFっぽい(かつ、平易な単語で構成されていて、ネット上でも読みやすい)ものになっているのは素晴らしい。戦闘シーンに迫力があり、スピード感・緊張感のあるアクションも良い。
キャラクターもなかなか立っている。
主人公アキラも、それをサポートするアルファや、ヒロインであるシェリルも、自分の利害を勘案しつつ行動する一筋縄ではいかない性格で魅力的。アルファは主人公がどうしてこのような性質になったかを探っているが、それが読者がこの小説を読む上での大きな興味になっている。
問題は、SFや世界観の方。
確かにSF的な文章はしっかり書かれているのだが、設定が練り込まれているか、というと疑問に感じてしまった。
主人公は「旧世界の遺物」なるものを探して遺跡をうろつき、それを売ってお金を得るわけだけど、その遺物ってどんなものなの? たとえば、回復薬や機械部品と書かれているが、それがそこまで高価格で取引されるというのは想像しにくい。
ディストピアものではあるけれど、企業もあり、この時代の技術もそれなりに発展していて、また力のある人はアキラとは及びもつかないほどの装備を持っている世界である。それにもかかわらず、結構近場で手に入る遺物で大きな財が手に入るのは不思議。
また、アキラ達が活躍する都市は辺境のようなのだが、33話まででは他の地域がどうなっているかがほとんど分からない。そのため、アルファが最終的にアキラに攻略させようとしている遺跡の内容などもほとんど出てこないし……。
意味深なセリフなどはあるものの、SF的には一番の興味であろう、旧世界はどうして滅んだのか? 現在この世界はどういう状況なのか? といったあたりにほとんど言及がないのが残念。
SF的なオリジナリティは感じず(やや珍しいモンスターが登場するくらいか)、人物関係などを結構緻密に描いているのに対して、世界観構築の方は曖昧に済ませてしまった印象がある。
まあ、はっきり言ってしまえば、冒険者が冒険者ギルドに行って、チートをもらって、迷宮を探索して宝物を売って……という「なろう」定番の内容を、舞台をSFに置き換えただけのように思えてしまった。
迷宮からモンスターが出て、宝物が~というような、ファンタジーの中なら(特に「なろう」なら)なんとなく許されているものをSFに置き換えてしまったため、粗が見えてしまっている印象がある。
とはいえ、逆に、この小説を「なろう」っぽいファンタジーに置き換えたと考えたなら、人物関係も面白く、アクションシーンの出来も良い成長物語で、標準以上の出来なのは間違いないです。
うんでも、舞台を変えただけにせよ、いつもファンタジーでは飽きるので、SF的な設定は新鮮で面白かった。