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アンチ・ヒーローもの? の傑作。
http://ncode.syosetu.com/n9016cm/
これも、異世界転生ものながら転生設定がほぼ役に立っていない作品。
「なろう」で書くために導入として異世界転生にしたのだろうが、他の場所で書いてたなら普通のファンタジーにしていたのだろう、と思う。
また、チート物とも言えない。
伯爵家に生まれるという立場を生かし、奴隷購入をしたりその奴隷を使って「実験」したりはするものの、それ以上のチートはない。
この世界では下法と呼ばれるものに対しても偏見なく手を出し、永遠の命を叶えるため努力を続ける、それだけだ。
主人公トゥリウスは偏見なく知恵を絞り、周囲の状況に配慮し、周りと軋轢を産みながらも立場を築いていく。襲いかかってくる様々な敵に結局は勝つ……というヒーローものの特徴を抑えておきながら、その解決方法が一々正義に適うものではないのが面白い。
それも、楽に勝利するわけではない。
主人公は陰謀術数をこなすが、彼だけが陰謀家なのではないし、万能でもない。他の陰謀家の策略を全て看過できるわけでもないし、色々な失敗も犯す。それでも冷静に物事に対処し、生き延びていくのだ。敵には優秀なものも愚かなものもいる。彼ら視点での描写もあるのだが、主人公と異なる思考過程を持った彼らが何を思い行動しているかも細やかに描写され、かつ非常に面白い。そしてそれを主人公がやり込めることで、敵役の存在が道化として浮かび上がってくる。
ところで、この作品を本当にアンチ・ヒーローもしくはダーク・ヒーローものと呼んでいいかは意見が割れると思う。主人公はこの世界内の法律を守り、周囲の状況にも配慮して彼自身の夢を成し遂げようとしている。いささか一般的でないことをしたとしても、それを悪と言えるのだろうか?
現代の価値観、特に今の日本的価値観からすれば、彼は純粋なヒーローと呼んでもいいようにも思える。