(~32、最新話)
現在四半期ランキング五位の作品。
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高校生のとき超能力に目覚めた主人公は、漫画やライトノベルのような非日常がやってくることを願いながらその能力を鍛え上げる。しかし、その期待虚しく、どんなに超能力を鍛え上げても秘密組織からの勧誘はなく、大学入学、卒業、就職とたんたんと日常は続いた。そんな日常に飽きた主人公が会社を辞め、同士を探して秘密結社を作り上げ、非日常願望を持っている子供に超能力を与え、ドラマを演出してヒーロー/ヒロインに仕立て上げる話。
設定やコンセプトは、やや目新しくはあるがそこまで斬新とはいえないと思う。だが、主人公の超能力や、それを鍛える際のディテールが非常に細かく、また、登場人物たちをリアリティもって描いているのが素晴らしい。
主人公を含め、登場人物の非日常願望(つまり中二病)具合も絶妙。主人公や、ヒロイン(鏑木さん)の性格自体はライトノベル典型の範囲内といっていいかもしれないが、中二病の中身や、そのためにしてきた内容の具体性は類を見ないと言っていいと思う。
そして、そういった登場人物のリアリティや細やかな描写がそのまま面白さに結び付く設定である。作者の実力が試されるような内容を描き切っており、見事な力量というしかない。
特に、三章でこれまでの展開を裏切るような新展開が始まったときは、トーンダウンしてしまうのではと不安に感じたが、そこも無難に収めてしまった。各話のタイトルが有名小説等のパロディにしたのも、あざとい気はするが悪くない。
それほど「なろう」向きの話とも思えないのにこれだけ評価されているわけで、ライトノベル(もしくは広義のSF系でも)の新人賞などに応募していたら普通に大賞を取れたのでは? と思えてしまう。
というわけで、完成度の高い名作なのは間違いない。ただ、難があるとすればやはりその設定。主人公が仕掛け人になる話のため先が読めてしまうところが多く、意外性はあまり期待できず、感動できる部分も少ない。
そのあたりの解決策が見つかれば「非常におすすめ」にするのだけれど……それは難しいかなぁ。
ところで、「小説家になろう」の文脈で言うと、この作品は「異世界転移/召喚からの帰還」ものに近いと思う。チート能力を現実世界でどう生かすか、というテーマは共通している。
ただ、「異世界転移/召喚からの帰還」タイプの作品は去年少し流行ったけれど、成功した作品は一つもなかったよね? 私はそう思っています。
あえて現実に帰還させるのだから、現実のリアリティを出さないと設定が生きない。けれど、チート能力を生かそうとすればリアリティーのない舞台が必要になる。
この困難な条件を乗り越えられた作者は、私の知る限りいなかった。そもそも、「なろう」で流行りのテーマに飛びつくような作者の多くは、普段、自分に都合の良い設定の異世界ものを書いている人がほとんどなわけで、「リアリティーを持って現実を描写できる」という時点で門前払いされていた気がする。
この作品の「秘密結社を作る」というのは、その解決策の一つと見ることもできると思う。
作者は「異世界からの帰還」という設定は選ばなかったけれど、主人公のチート能力を「異世界からの帰還」として描くことも可能だったはず。そう考えると、「なろう」作者が束になっても成功しなかった設定で面白い物語を作れることを示した、と評価することもできる。
ただし、「秘密結社を作る」設定なら誰でも面白い話を書けるかといえばもちろんそんなことはなく、上記の通り、この設定は作者の技量に依るところが大きい。凡百の作者が同じ設定で物語を書いたとしても駄作にしかならないと思う。
逆に言えば、これは「なろう」では珍しい唯一無二といってもいい作品(同じ設定を試すフォロワーは出てくるかもしれないけどなかなか上手くいかなそう)で、そういう観点からしても素晴らしいと思います。