（～41、完結済み）
六月～七月ごろ四半期ランキングTOP5に入っていた作品。
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題名の「私」は悪役令嬢のことなのだが、この悪役令嬢を「主人公」と呼んで良いかはやや疑問が残る。この悪役令嬢以外の何人か、たとえば、前世ではこの悪役令嬢と婚約破棄した王子にはループ前の記憶があるし、また、王子を狙う男爵令嬢（ゲームのヒロイン）にはこの世界がゲームの世界だったという知識がを持っている。それに対して、そのような記憶を持たない悪役令嬢は、王家の都合で自分の婚約相手が決まらないことに怒りを覚え、辺境伯へ自らを売り込むことにした。すると、思った以上に辺境伯との相性は良く、幸せになっていく。
ゲームへの転生ものであり、ループものなのだが、主人公の悪役令嬢にはループの記憶もゲームの知識もない、という珍しい設定の作品。ただし、ループの記憶のない主人公にループの話はできないので、他者視点の話が多く、この悪役令嬢一人を主人公というよりは、ループに関わる数人が主人公と言った方が適切かもしれない。
前世で、悪役令嬢が男爵令嬢をいじめた結果、王子が悪役令嬢に婚約破棄を突き付けた……と考えている人々と、そのような事情を全く知らず、面識のない王子に対して何の感情も抱いていない悪役令嬢の対比が面白い。
そこに、この世界がゲームだという知識があり、ゲームの通りになるはずだと思っている男爵令嬢の自分勝手な考えが絡んでくる。彼女は、ゲームのことは熟知しているが、ゲームで描かれていた内容がそのまま成り立つと思い込んでいるため、ゲームと違う展開に戸惑ったり、ゲームの内容を信じて変わった言動をしたりする。
かなり面白い設定だと思う。
作品の設定や大枠が分かった後も、どうして現在の状況になっていて、どうやってループを抜けるのだろう、といった謎で物語を引っ張っていく。そういった構成も上手い。何より、そういう技巧的な設定の物語なのに、その主人公として何も知らない少女を据えているのが良い。
ただ、視点変更や、時間軸の行き来が多いこともあって、作品への没入感はあまりないと思う。悪役令嬢視点の部分は読んでいて楽しいが、他の視点では設定の説明をしなくてはいけないため、あまり面白くなくなっているところもある。
また、ゲームの攻略対象全員を活躍させられてはいない気がした。全く意味なく配置されている人物はいないのだが、物語の展開にあまり影響していないと思える人物もおり、そのあたりはもっと改善しようがあったのではないかと思う。
設定や構成は面白けれど、上手くいっていないと思える部分も結構あり、そういう部分が改善させればはっきり「おすすめ」です。しかし、いくつか欠点があるからといって、それで減点するのも違う気がするので、「おすすめ」評価のままにします。
